説教:木村長政 名誉牧師

 聖霊降臨祭(赤)創世記11章1~9節、使徒言行録2章1~12節、ヨハネ16章4b~11節、使徒言行録2112

「聖霊が降って、全地の民に」

 今日の礼拝は、世界中のキリスト教会が、特別な礼拝をしています。

 聖霊が弟子たちの上に降った、という出来事が起こったのであります。

 使徒言行録2章1~4節を見ますと、

 「五旬祭の日が来て、一同が1つになって集まっていると、突然、激しい風が吹いて来るような音が天から聞こえ、彼らが座っていた家中に響いた。そして、炎のような舌が分かれ分かれに現れ、1人1人の上にとどまった。すると、一同は聖霊に満たされ、霊が語らせるままに、他の国々の言葉で話し出した。」とあります。

 イエス様の弟子たちが五旬節の日に、皆が集まっている所に突然聖霊が降ったのです。

 ここで言っている五旬祭というのは、特別な日でした。過越の祭の日曜から数えて50日目の日曜のことです。

 「七週の祭」とも呼ばれました。もともとは小麦の収穫を祝う日でありました。ですから「刈入れの祭」とも呼ばれていました。

 余り重きをなさない祝日でしたけれども、モーセがシナイ山で十戒を授かったことを記念して祝日と見なして以来、大きな重要性を持つようになったと言われています。

 ですから、ここで、五旬節の日に祭のため多くの人々が地方からエルサレム神殿に集まっていたのです。そうして、神からの驚くべき出来事が起こりました。新しい恵みが、弟子たちの上に臨んだということであります。

 この日に「みんなの者が一緒に集まっていた。」とあります。原文では「一緒に」という言葉と「同じ所に」という二つの副詞が、たたみかけるように重ねて出てきています。それだけ、ひと所に一緒に集まっていたということが強調されているということです。

 教会は、キリストを中心として、キリストの救いに預かった者たちが集まって祈りをいっしょにするのであります。

 キリストからさずかった愛を、互いに交わすために、集まっているのであります。信仰の必然的な姿がここにありました。

 復活の姿を弟子たちにあらわされたイエス様が昇天されて以来、弟子たちはひそかに1つ所に集まってひたすら祈りをしていたと思います。それは、聖霊が下るという天からのとてつもない大きな恵みに浴するための準備として、彼らはひたすら思いを1つにしていたことでしょう。

 著者ルカは、このことをとても重視して書いているわけであります。神の恵みの舞台は整いました。そして、想像できないような出来事が起こったのであります。2節を見ますと、「激しい風が吹いてきたような音が、家いっぱいに響きわたった」とルカは書いています。

 皆さん、想像して見て下さい。神様が起こされる御業というものは理屈や説明をこえて、想像の世界、霊の次元の世界が突然にあらわされたのです。

 神の霊が目には見えない力で、全身の体にはっきり感じとれる激しい現象が、皆の者の上に降ったのであります。それだけではありません。

 更に「舌のようなものが炎のように分かれて現れた。その炎の舌は1人1人の上にとどまった。」と

3節で言っています。どんな光景でしょうか、皆さん、想像してみて下さい。聖霊の力の中で満たされている者は1人1人ちがって、ふるえ上がっているのではないでしょうか。驚きと恐怖、また自分をはるかにこえた次元のちがう世界に動かされるまま、語らされるままに、聖霊に満たされている。

1人1人ちがった聖霊降臨という奇跡の只中に用いられているわけです。

 ユダヤ人たちの伝承によりますと、あのシナイ山において、神の言が70の舌に分かれて、世界の70の国民はそれぞれ自分の国の言葉で、この十戒を聞いたという。ルカは、ユダヤ人たちがこの伝承をよーく知っている、そのことを含めて、舌のようなものが炎のように分かれてのぞんだという表現で書いています。

 そして更に4節を見ますと、聖霊に満たされた人々は、他国の言葉で語りはじめた、とあります。これは他国の言葉でもあり、異言を語り始めた、とも読める、という解釈もあります。それ程異状な光景で、語る者と聞くものだけは心がはげしく通じ合っているとでも言える光景です。

 ルカはすでに1章8節のところで、イエス様は召天される時、弟子たちに向かって言われた。

 「あなた方の上に聖霊が降ると、あなた方は力を受ける。そして、エルサレムばかりでなく、ユダヤとサマリヤの全土で、また、地の果てに至るまでわたしの証人となる。」

 聖霊が降る時、受ける力というのは、病をいやしたり、悪霊を追い出したりするような奇跡をなす力であるよりも、むしろ言葉による能力の力を言っているのであります。

イエス様が召天されて、彼らはこれからいったいどうしたらいいか途方にくれていた。そういう彼らの上に、霊的な力が与えられた。そして彼らは、新しい言葉を与えられて、しゃべり出した。

 それは民族の境を越えて、全地の民にわかる言葉で喜びのおとずれを宣べ伝えたのです。

 「これからイエスの証人となるのだ。」という具体的内容であります。そのことが起こった。

 全身にものすごい風の音がひびきわたり、聖霊が降った。ものすごいことです。もう何といったらいいか、想像を絶することです。

 4節からルカは次のように書いています。「すると、一同は聖霊に満たされ、霊が語らせるままにほかの国の言葉で話し出した。さて、エルサレムには、天下のあらゆる国から帰ってきた信心深いユダヤ人が住んでいたが、この物音に、大勢の人が集まって来た。そして誰もかれも、自分の故郷の言葉で使徒たちが話しているのを聞いて、あっけにとられてしまった。」

 弟子たちは、ふだん魚をとっていた人とは全くちがって、霊に満たされてしゃべり出した。語らせるままに福音をそれぞれの故郷の言葉でしゃべり出したのです。それを聞いた人々は、メソポタミアからエジプトに至るまでの人々であって、彼らは離散している「ディアスポラ」と呼ばれたユダヤ人でありました。

 自分の生れ故郷の言葉で、イエスの弟子である使徒たちが話している。何ということだ!彼らは胸打たれ、感動したのです。

 今まで聖地エルサレムから遠く離れて、霊的にはいつも孤独感の中に、見捨てられたように感じていた。離ればなれのユダヤ人たちの魂に今、神の言葉が、自分自身のふるさとの言葉として注ぎ込まれたのであります。

 このようにして、彼らの魂がとらえられ、神の恵みの中に招かれていったのであります。

 9節以下には、ルカが、その故郷の言葉を聞いた人々の地名を面々として記しています。

 なぜこのように、こまかく地名を書いているのでしょうか。

 ここに列挙されている地で、ユダヤ人がどんなにつらい迫害を受けて、耐えてきたか、ルカは

伝承の資料でよーく知っていました。

 パルディア・メディア、エラムから始まって、これらの地はカスピ海の周辺にあった地名です。

 メジアはカスピ海の西南にあり、メソポタミアは、バビロン捕囚にあったイスラエルの民が、うき目をつぶさになめた土地です。

 エラムはその東にあって、カッパドキアは小アジアといわれ現在のトルコの東部にあります。私はその近くまで、パウロの伝道した地を訪ねました。カッパドキアは今でも、多くの人が訪れ、奇妙な岩石がにょきにょきとつき立って、その岩穴に、ユダヤの民は苦しい生活をせざるをえませんでした。

 ポントは、その北にある黒海沿岸の地帯にあります。

 次のアジアと言うのは、小アジア西部にあってローマ帝国時代アジジ州のことです。

 フルギアとパンフリアも同じ小アジアの西南部にあって、ここに挙げられている1つ1つの地域にユダヤの民が離散の後、その土地で苦しんで苦しんだ歴史が含まれているからルカは、その1つ1つの地名に万感の思いをこめて記しているわけであります。

 そうして、ルカは11節で「ユダヤ人と改宗者」という言葉で、これらの列挙した人々を宗教的な観点から総まとめしています。

 ここにあるユダヤ人と、ユダヤ人の改宗者、クレテ人とアラビヤ人とを除くと、あとには12の名が残るという。12というのは、1つの完全数と見なされ、言いかえると、全地の民に向かって今や、福音が宣べ伝えられ始めた、ということです。ルカは何としてもこのことを強調したかったのであります。ルカは福音書も使徒言行録も異邦人向けに書いています。

 しかもローマが12番目に挙がっており、この使徒言行録もパウロのローマ伝道で終わっているのであります。

 「あなた方は、地の果てまで、イエスの証人となる。」というこの約束の言葉が、すでにここに実現の第一歩を踏み出している、ということを、パウロは万感の思いに満ちあふれて、私共に示しているのです。

 1章6節に、弟子たちが「主よ、イスラエルのため国を復興なさるのは、この時なのですか」と、たずねる時、恐らく、まずエルサレムを中心とするイスラエルの復興を待ちのぞんで言ったでしょう。

 ところがここでは、むしろ、死の陰に座する民のもとへ行け、という指示を受けたのです。

 そして事実、10節から11節に列挙されている地方に、福音は伝道されていったのです。

 ポントは、パウロの協力者アクラの出身地でした。

 アジア、フルギヤ、パンフリヤはいずれもパウロの伝道の活躍した地域でした。

 エジプトからは、伝道者アポロが起こされました。

 クレテ島にはパウロの弟子、テトスが派遣されました。

 このような福音前進の跡がここですでに先取りされて予告されているのであります。

 これが、聖霊降臨によって神の恵みがもたらされたメッセージであります。

                                            アーメン    

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