牧師の週報コラム

聖書とチャットGPT

 ある国のルター派の神学校の授業をオンラインで担当することになり、教える科目の一つが「外典論」。 それで、旧約聖書の古代ギリシャ語訳の書物リストが必要になった。旧約聖書は、ギリシャ語の方がヘブライ語よりも書物数が多い。従って、それを基にするカトリック教会の旧約聖書の書物数は、ヘブライ語を基にするプロテスタント系よりも多いのだ。書物リストを講義用のレジメに入れたいが、パソコンで一つ一つ打ち込むのは面倒。そこで、今世間を騒がしているチャットGPTとやらを使ってみようと思い立った。リストを出してもらって、それをコピー&ペーストしてレジメに貼り付ければ簡単だろうと。早速、「Septuagintの書物リストを出して」と入力。Septuagintは旧約聖書のギリシャ語訳の英語名(レジメは英語なのでチャットも英語)。

 何だか、「鏡よ、鏡よ、鏡さん」みたいだなと思う間もなく、ツラツラツラとリストが出てきた。それをすぐコピペ。しかし、レジメを確認してビックリ。トビ記とかユディット記とか短い物はあるが、マカバイ記のような長編が欠けているのだ。念のために「カトリック教会の旧約聖書の書物リストも」と聞くと、それも同じ。そんな馬鹿な!どうしたものか途方に暮れ、ほんの試し心で「LXXの書物リストを出して」と入力してみた。LXXとはSeptuagintを意味するローマ数字だ。すると、ちゃんと全部出てきたのだ!

 そこで聞かずにはいられなかった。「同じ質問をしたのに、名称を変えたら違う答えになるのはなぜ?」 すると、「混乱させてしまって申し訳ありません。」 なんと謝ってきた。なんでも、異なる伝統には異なる書物リストがあるので、などと言い訳も添えて。質問に正面から答えていない。まるで「犬の頭が西向けば尻尾は東」と言うのと同じくらいに空虚な文句である。「僕は異なる伝統のリストなんか興味はない。今出てきた一番大元にあるリストが欲しいのだ。」 「わかりました。」 「じゃ、カトリック教会のリストをもう一度だして」 「もちろんです!」 これで全部揃って一件落着。「ありがとう」と入力すると、「どういたしまして。また何かお聞きになりたいことがありましたら、是非聞いて下さい。」 少し至らなかったが、なかなか謙虚ではないかと感心した。

 そこで教訓。チャットGPTに聞く時は無知識で聞くのは危険だろう。この答え、大丈夫かな、と思えるくらいの最低限の知識と、少しでもおかしいなと思ったら遠慮せずすぐ食いつく姿勢も重要。裏金問題を新聞記者に質問されて「答えないと言っているのに頭悪いね」と言った国会議員がいたが、そんなレベルの低い世界の話ではないのだ。

 さらに一つ余計なことかもしれないが、付け加えると、何かを聞く時、出てきた答えを吟味する時、答えを何かに用いようとする時、倫理的態度を確立している必要があると思う。「殺すな(=人を傷つけるな)」、「盗むな」、「姦淫するな」、「偽証するな」、「妬んで欲するな」という態度が確立していないと大変な世の中になるだろう。それはSNSの弊害を見ても明らか。

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