牧師の週報コラム

 ロシアのフィンランド系少数民族のルター派教会について

SLEY(フィンランド・ルーテル福音協会)はロシアにも宣教師を派遣しているが、同国での協力教会はフィンランド系少数民族のルター派教会である。正式名称を「イングリア福音ルーテル教会」と言う(以下イングリア教会)。

 ロシアのサンクトペテルブルグを中心に半径50100キロ範囲の地域は伝統的にフィンランド系民族が住む地域でイングリアと呼ばれる(フィンランド語でインケリ)。同地域は中世の時代からカトリックとロシア正教が覇を競い合う地域だったが、1500年代の宗教改革の時代にスウェーデンがルター派の国になり、1600年代にはバルト海をほぼ内海とする大国に。その時に多くのフィンランド人がイングリアに移住して同地域はルター派の地域となった。イングリア教会の正式な設立年は1611年である。

 ところが、1700年代初期の大北方戦争でロシアがスウェーデンに勝利すると、イングリアはバルト三国の大半と共にロシア領に。さらにピョートル大帝がイングリアのど真ん中に大都市サンクトペテルブルグの建設を開始。イングリア・フィンランド人は同地域で少数派に転落。他方で、1800年代初期にフィンランドがスウェーデンからロシアに半独立国のような形で併合された結果、フィンランドのルター派教会とイングリア教会の協力関係が深まることに。加えて、ナポレオン戦争後のロシアは欧州キリスト教の擁護者の自負が強かったこともあって、イングリア教会は帝国の保護も受けられ発展を遂げていく。多くの立派な教会堂が建てられたのもこの時期である。

 ところが、1917年のロシア革命後は共産党政権の下で徹底的に弾圧を受け、1930年代から60年代までは公けに活動ができなくなり、江戸時代日本の潜伏キリスト教徒さながら、地下で集会を守っていた。70年代に入って弾圧が収まり出し、ペレストロイカの時代になってフィンランドをはじめとする諸国の支援を受けられるようになり、接収されていた教会堂を次々と取り戻して通常の教会活動を再開、1991年には法的な地位を回復した。ところが、現政権の時代になってからロシア語化の圧力が高まり、若い世代のフィンランド語習得も減少を続け、礼拝もロシア語で行われる所が増えてきてしまった。現在のイングリア人にとってアイデンティティーの中核はルター派の信仰なのである。

 イングリア教会の神学校が修士課程を設置したことで博士レベルの講師が必要ということになり、昨年春SLEYから私に打診があった。今の国際情勢のもとでは現地で教えることなど出来ないが、オンラインで良いということなので引き受けた次第である。 

DSC_3767

新規の投稿
  • 2025年11月9日(日)聖霊降臨後第22主日 礼拝 説教 吉村博明 牧師
    主日礼拝説教 2025年11月9日(聖霊降臨後第22主日)スオミ教会 ヨブ19章23-27a節 第二テサロニケ2章1-5、13-17節 ルカ20章27-38節 説教題 「神は死んだ者の神ではなく、生きる者の神である。」 私たちの父なる神と主イエス・キリストから恵みと平安とが、あなたがたにあるように。 アーメン わたしたちの主イエス・キリストにあって兄弟姉妹でおられる皆様 1.はじめに […もっと見る]
  • スオミ教会・フィンランド家庭料理クラブのご案内
    次回の料理クラブは11月15日(土)13時の開催です。 フィンランド的なパン「サンピュラ」を作ります。今回はオートミールをたっぷり含み、白ゴマ黒ゴマでトッピングしたオートミール・セサミ・サンピュラです。オートミールもセサミも栄養素が豊富なのでフィンランドでは健康的な食卓パンに数えられます。パンはふっくらとしていて、バターやマーガリンだけでも香ばしく美味しく頂けます。もちろん、ハムやチーズを挟んでサンドイッチにも最適です! […もっと見る]
  • スオミ教会チャーチカフェ 2025年11月29日(土)11:00~16:00
  • 牧師の週報コラム
    ルターによる御言葉の説き明かし ― フィンランドの聖書日課「神の子らへのマンナ」11月4日の日課から これぞ、ルターの神学の神髄、「イエス様と人間の幸いなる交換取引」なり! 「キリストは、わたしたちのために呪いとなって、わたしたちを律法の呪いから贖い出してくださいました。」(ガラテア3章13節) […もっと見る]
  • クロステージ手芸クラブの報告
    10月の手芸クラブは29日に開催しました。少し肌寒い午前でしたが、午後からは太陽が輝く秋晴れの天候に変わりました。 […もっと見る]
  • 歳時記
    蜘蛛、雲、Kumo <14 その頼むところは断たれ、/その寄るところは、くもの巣のようだ。 15 その家によりかかろうとすれば、家は立たず、/それにすがろうとしても、それは耐えない。 ヨブ記8:14・15> […もっと見る]