牧師の週報コラム 

映画「ワンダフルライフ」を観て(全聖徒主日に寄せて)

今年の夏フィンランド滞在中、現地のテレビで日本の映画を観る機会があった。3つほど放映され、そのうちの一つが是枝裕和監督の「ワンダフルライフ」。 1999年制作で英語版タイトルはAfter Life、つまり「死後の世界」。私は観たことはなかったのと、あと現地の新聞の映画評で5つ星だったので観てみた。

ストーリーは、人は死んだ後に寄宿舎みたいなところに来て、そこで人生で一番大切な思い出を一つだけ選ぶことを求められる。そこの相談員と話し合いながら決める。期限は1週間なので、話し合いはかなりインテンシブ。決まったら、そこのスタッフがそれを映画にして再現して1週間後に上映会を開く。それを観て記憶が鮮明に蘇った瞬間、その思い出を抱いて最終地に旅立ち、そこで永遠にその思い出の状態で存続する。上映会の最中に一人また一人と消えて行く。それが終われば、次のグループとの新しい1週間が待っている。思い出を選べなかった人はそこの相談員やスタッフとして働くことになる。相談員といろんな人との話し合いが映画の大筋。いろんなタイプの人が登場する。割と早く決められる人、なかなか決められない人、結局決められない人等々、ユーモラスな場面も。

私の関心を引いたのは、イセヤという青年。相談員を前にして机の上に足をのせたりする態度。ワルだったことを窺わせる。「あれっ、子供の頃よく言われた、悪いことしたら地獄に落ちるというのはないの?」「ありません」と相談員。「本当に全員がいい思い出をもって行けるの?」「本当です。」 思わずニヤッと、「やった!」 しかし、ここから彼の苦悩が始まる。人生で一番大切な思い出を決められないのだ。ある時、相談員にぶちまけてしまう。「自分の大切な思い出だけでいいなんて、責任とかはどうなっちゃうの?」真実を求めたことが良心の呵責を引き起こしてしまったのだろう。結局、彼は決められずそこのスタッフとして働くことに(セリフは記憶だよりなので正確でないかもしれません)。

映画を観て、あれっと思ったのは、フィンランドのキリスト教の伝統では、大切な思い出というのはあちら側でなく、こちら側に関係するもの。弔辞の決まり文句の一つ、「在りし日の故人の思い出に敬意を表します」がそれを示している。キリスト教の復活信仰によれば、亡くなった方は復活の日まで安らかに眠るので思い出など考えない。眠りに入る前、創造主の神は果たしてこの私を両腕で抱きかかえるように受け止めて下さるかどうかが気になるところ。しかし、イエス様を救い主と信じていれば大丈夫と約束された神に全てを委ねる。人生にやましい事があった人も、そんなこと思い当たらないという人も皆そうするのだ。

キリスト教会では古くから111日をキリスト信仰のゆえに命を落とした殉教者を「聖徒」とか「聖人」と称して覚える日としてきました。ラテン語でFestum omnium sanctorumと言います。加えて112日をキリスト信仰を抱いて亡くなった人を覚える日としてきました。これは、Commemoratio omnium fidelium defunctorumと呼ばれます。フィンランドのルター派国教会では11月最初の土曜日が「全聖徒の日」と定められ、殉教者と信仰者双方を覚える日となっています。今年は昨日の112日でした。日本のルター派教会のカレンダーでは111日が「全聖徒の日」、それに近い日曜日が「全聖徒主日」と定められたいます。

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